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吐く息白い1月から始まった今年のバッカスも、気付けば5月、季節は春合宿のシーズンなのである。
毎回茨城から岩井まで電車を乗り継いでいくのだが、今年は牛久からチェロのF先輩の車に乗せてもらった。連休前の寒さがうそのような天気の下およそ3時間半、たわいない話に花を咲かせ、道の駅でラーメンを食し、相槌を打っていたF先輩の声が枯れた頃、春・夏ともにお世話になっている“かわきん”さんに到着した。
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時計は1時半、先に到着した人たちが庭でコーヒーや豚汁を飲んでいた。
豚汁?
この民宿は毎年どこかしらが改築されており、今年は裏庭にカフェ・テラスができていた。豚汁もその一環だろうか。
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荷物を置いて食堂に行くと、各トップが「新世界より」の第3楽章を聴きながら、譜面を追っていた。全楽章の譜面が完成したのである。もらっていないトップはぼくだけのようなので、末席にちょこんと座る。合奏は4時から始まった。指揮者から今日は「新世界より」の第3と第4楽章を演奏すると告げられた。
この第3・4楽章、一筋縄では行かない代物だ。一度小節を見失ったが最後、弾き真似すらできなくなる。本番でそうなったら、調弦するふりをして時間を稼ぐしかない。
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指揮者から指示が飛ぶ。
「ここは漫画の最後の一コマの、意味深な台詞のように」
「ガンダムの『坊やだからさ』的な音を」
各奏者の頭から○がいくつか出てきて頭上中央でくっついて一つの大きな雲を作り、中に“?”と出たのが見えた。
2時間の合奏を終え、夕飯である。「かわきん」さんの夕食は、どこからどこまでが自分の御飯かわからなくなるくらい、数も量も多い。そして、必ずオレンジや梅酒といった果汁入りゼリーが出てくる。食事に限らず何かにつけて出され、岩井のゼリー消費量を左右しかねない勢いである。
7時15分から、夜の合奏が始まった。今日配られた第3・4楽章を最後まで通すという。そんな無茶なと思われるかもしれないが、勢いというか何というか、やってしまうのだ。
「皆さん流石ですね、通りましたよ!」
指揮者はそう絶賛するが、正しくは「通った」ではなく「通した」というべきである。指揮者の執念初見を通す。
合奏は10時で終わり、0時までパート練習、風呂。そして0時に「しょにちや」開店である。
「しょにちや」とは、皆が持ち寄ったお酒や肴を嗜む、早い話が初日の打ち上げである。いつもはなかなか人が集まらないのだが、今年は例年になく多かった。
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古参も新人も関係なく、明け方まで飲み、食べ、喋る。合奏よりもパワーと結束力を感じる。
これなら第3・4楽章も通せるよなあ---なんて思いながら、初日は終わるのである。