今年も岩井にやってきた。音楽人にとってここは海水浴場ではない。“合宿の聖地”である。いざ、鎌倉。
水戸より北にある自宅から岩井駅まで5時間以上、毎度のことながら長丁場であるが、今年は幸いにも千葉駅を過ぎたあたりでDolaのYさんを見つけた。おかげで三谷幸喜やグルジア侵攻や東京税関の麻薬犬訓練で大麻樹脂を紛失した話などで大いに盛り上がった。スタートは上々だ。
駅の改札で同じ電車に乗っていたフルートの○ちゃん達と合流し、かんかん照りの中を汗だくで歩く。日差しが肌を刺す。
勝手知ったる駐屯地「川きん」さんに到着すると、ホールは早くも合奏の準備ができていた。
2008年夏合宿の合奏練習は夏の夕方16時、1部の全曲通しから始まった。
「どの辺が危険か、わかったと思います」
コンダクターO君はいつも通りの穏やかな顔と穏やかな口調だが、しかし、その意味するものはウラハラだ。ぼくには3回に1回がヘアピン・カーブである。いろは坂が見えた。
海の幸満載の夕食の後、19時15分から合奏練習の再開である。
始まりは1部のシリウスから、今度はじっくりと仕上げていく。真剣とも悲痛ともつかぬ思いと眼差しで、コンダクターを見つめる。この真剣さが3月からあればよかったのに。我が身を恨む。
そしてコンダクターがM氏に代わり、2部の企画、“BACK TO 80’S”である。マドンナ、マイケル=ジャクソン、ビリー=ジョエル等々の80年代の名曲を散りばめ、80年代の象徴的名曲で締めくくるというM氏の趣味丸出しの編曲は、グランジ以前のわかりやすいメロディーを持った「みんなの大ヒット曲」を生み出した80年代の洋楽全盛期の復権、正しく“BACK TO 80’S”!
M氏が腰にモノを言わせて指示を出す。
「MJはもっとウラ拍を意識して!」
「マドンナ、もっと色っぽく!」
「ここは頭(こうべ)を垂れて、祈るように・・・」
我々は時にはMJ、時にはマドンナ、時には長山洋子・・・ではなくてバナナラマ。
「みんなで左から揺れて!」
皆が同じテンポと方向で揺れる姿を後ろから見る。ああ、80年代洋楽は何て素晴らしいのだろうと思っているうちに、いつもぼくだけ向きが逆になる。中学時代の運動会の行進で、自分だけ足並みが揃わなかったことを思い出す。今でもライヴに行けば周りのオーディエンスに肩で何度もあごをかち上げられるのだが。
初日の合奏練習のラストは「胡桃割り人形」だった。
「『序曲』は心拍数と同じテンポで!」
・・・コンダクター、本当にあなたの心拍数はこのテンポなのでせうか? 不摂生がたたったのでせうか? 母さん、僕のあの帽子、どうしたでせうね? 物の本に「目方のある生き物は、ゆっくりと脈打つ」とあったような気がするのだが。
合奏練習は23時頃に終わったのだが、その後は個人練する者、初日の飲み会を始める者、飲んだ上に海でEXILEの真似をする者と、皆それぞれ思い思いで好き勝手な楽しみ方で合宿初日の夜は明けていった。続きはwebで。